鹿戻し
JR名塩駅で日常的に多くの人が利用しているロータリー南の山際は、名塩川の流れるままに削り取られて,目も眩むほどの断崖絶壁であった。猟師に追われた鹿がたじろいで後戻りをするというので鹿戻し(ししもどし)という名がついている。なぜ鹿をししと呼んだかはわからない。数多くの文献からもその情景が伝わってくる。その一つを紹介する。「名塩村の内、上方より丹波播磨へ行く道筋也、高き岩山の腰を三町斗、切かけたる坂なり、長き柴をもて谷の方を見へさるようにきひしく垣をゆひたり、水音かすかに谷底にきこゆ、其深さ百間あまりあり、垣間より覗き見る人、胆をひやして退く、猟師に追い出されたる鹿に一筋にのほりえすしてもとりしより、鹿もとしといういふなりとそ」迎湯有馬名所鑑(1683)このような地形のため交通の難所でもあった。大昔は崖の上部を尾根に沿って上り下りしていたようでその痕跡も残っている。その後、道路が改修される度に低くなっていき、現在は、山肌とは関係のない形で建設されている。旧道脇には、受難者のためのものであろうか、小さな祠に馬頭観音が祀られている。埋め立てられた台地に塩瀬センターが建ち、交通の拠点が整備された。当時を想起することも叶わないくらいの変わりようである。名塩探史会